No.346
7月 文月

 渋谷駅では傘を広げたほどの雨なのに、わずかバス停二つ目の自宅近辺は、カラッと
していて誰も傘などさしていません。

 と、云う現象には、もう慣れました。
 もっと顕著な時は、国道246の向こう側とこっち側で、雨の降り方がまるで違う。
 と云うことも何度か経験しています。

 自分の毎日着る洋服について、ふりかえってみると、
 「このウールの半そでのセーター、もう何年も着ていない」
 と気付くこと、きっと私だけではないでしょう。
 気候の変化がすごく激しくて、
 寒かったと思ったのに、突然夏日が来たりして、季節が穏やかに移ろっていく
グラデーションの途中段階がナイのですね。
 だから、洋服も「途中がナイ」。


 こうした気候現象は、地球温暖化の問題と深く関わっていると考えられます。
 もう一つ、この近辺の「ビル風」のすさまじさは、ここに暮らす人々の間では、有名です。
 「あそこは通れない、通りたくない」
 と云う所が何か所もあり、もうたまったものじゃありません。

 私の住むマンションは、国道246を小道一本入った所に建っています。
 で、その一本入った小道に、有名な激風箇所があり、ここを通らないと出入りできません。

 あのォ、ビル風に、まともに煽られたことありますか?
 いったい、この風は、どんな流れで吹いているのか、と、研究者に解明してもらいたいと
本気で考えているくらい、腹が立っています。
 吹く、などという優しいイメージではありません。
 まるで叩きつけるように
 前後、左右、上下、全てから強風が叩きつけてくるので、どんなにヘアスタイルを整えて
家を出ても、もうここで、グシャグシャです。
 煽られるという言葉がピッタリ。
 この6月には雨が多かったので、傘を2本ダメにしました。

 これ、完全に現代の超高層ビルやマンション建設ラッシュによる被害でしょうね。
 でも、この渋谷近辺は、まだまだ、もっと、とばかりに樹木を切り倒して、ビルを建ててい
るクレーンばかりが目立ちます。
 そして、あっちもこっちも、ビル風ばかり。




 本当に、私たち人間って、どっちを向いて歩いているのだろう……。

 近所に住んでいた、プール仲間の一人は、
 「俺、新しく出来たあのビル見ていると、気分悪くなるから」
と、さっさとみどりの残る地方に引っ越して行ってしまいました。

 確かにね、風景は重要な私たちの財産です。
 心に沁みる、穏やかな風景は、心を癒してくれます。
 だから、私も、必死になって、狭いベランダにも家の中にも、みどりを増やし、少しは
ホッとする空間を作り、頑張っています。

 でも、朝、窓を開けると、好むと好まざるに関わらず、見たくもない異様なデザインの
ビルが視野を妨げたなら、多分私も、仕方なく引っ越すでしょう。
 だって、立ちはだかるビルには勝てないもの。

 「気の流れが、悪くなったと思いません?!」
 と、その人は憤然として云います。
 …………
 無数の白い、チョロチョロした、ビル壁面の模様は、デザイナーにとっては、
クリエイティブなのかもしれないけど、「ナメクジが大量発生し、這い上がっている…」
 私は、そう感じながら、気味悪いので、なるべく見上げないようにして、帰ってくるのですが、
 毎日、窓を開けると目に飛び込んでくるのではねェ……




 今回のオリンピック…… 「最初からケチがついてたじゃないですか」と云われ、あァと
思い出しました。
 確か、オリンピックスタジアム建設のコンペに優勝した外国の女性建築家の作品が、
ドでかくて、まるでこれじゃあ神宮の森の中に、宇宙船が突然飛び込んできた違和感だ。
 それに…と、次々と、「違和感」が指摘され、白紙に戻した…という経緯がありましたね。
そういえば。

 では、じゃあ、今建てたものは? 全てこれでOK?………
 考えはじめると、あれもこれも、あァ疲れる……!




 ここ、東京と云う、発展に発展を重ねた巨大都市の真中に住んでいると、便利さについ
つい乗っかって、もっと早く、もっと手軽に、もっと便利に、ばかりに浸ってしまうけど、
 それじゃ、自滅する。
 と、便利になるスピードに反比例して、本来私たち人間のとるべき姿を、どこに定めたら
いいのかを、具体的に真剣に考えざるを得ません。そう云う機会がとても多いのです。

 いえ、なにも都会だけじゃない。
 それぞれの地で、それぞれの条件下で、つきつけられている問題は、多分山積みのはず。

 その中で、お互い、必死で生きているのですね。



 「このコロナが収束し、早く元の日常が戻ってきて欲しい」と、誰もが願っています。
 が、本当に「元の日常」は戻ってくるのでしょうか。果たして、元の日常で、いいのでしょうか。

 少なくとも、自分にとって、「大切なものは何か」を、しっかり問い直すチャンスであること
は、確かでしょう。
 やっぱりね、と再確認かもしれないし、
 新しい発見もあるかもしれません。


 こんな時、私は、「ホモ・サピエンスのヒミツ」(おどろきの人類700万年史)を、ふらりと、
散歩気分で開くことが多くあります。
 図解なので、気楽で楽しい。

 その長い歴史の流れのラスト、と云うか、「現在」に、今私が生きている……
 特に、産業革命を経て、一銭でも多く儲けることが、何にもまして一番重要な生きる目的
になってしまっている今の私たち。
 と、小さな頭でも、俯瞰出来て、さまざまな現代が抱える問題点を客観視しながら、
「そうか…」とうなずいたり、嘆息ついたり、している最近です。




 そうそう、先日発売されたCD、カウンター・テナー 村松稔之さんの「オマージュ」 
すばらしい!
 毎日毎日、くりかえし聞くほど魅せられていて、この歌の中にボーっとしていると、気持が
浄化される感じで、本当に助けられています。

 私は、疲れたときは、好きな音楽が一番だ!




 朗読「水の会」は、地道に、コツコツと練習を重ねています。
 ささやかでもいいから、きっちりと、足跡を残すべく、考えられる限りの努力をしている
仲間たちを、心底誇りに思います。
 みんな、ありがとう!
 嘆息も、愚痴も、焦りも、怒りも、悲しみも、あって当り前。
 その中で、励まし合いながら前進できて、倖せ、心から感謝します。
 そして、この便りを読むために開いて下さっている「あなた」にも、感謝と愛を込めて
 「ありがとう!」を送ります。

 どうか、この混沌とした日々の中に、少しでも心穏やかで豊かな時間があることを
 祈っております。




                                            2021年7月
                                            今井登茂子
                                                                                              

 ※ 次回の「季節のたより」は 東京オリンピック閉幕後 
    8月中旬にお届けする予定です。
                              

 
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