No.320


2019年 3月 弥生

 お元気でしょうか!

 おひな祭り ですね。
 春を一番身近に感じる時でもあります。
 雛あられを買ってきて、ポリポリ食べながら
 きょうは 夫が使っていた茶色の書類ケースを持ち出してきて
 ほこりを払い、オイルを塗ってキレイにし、
 机の横に置いて ながめています。
 別におひな様と直接関係はないけれど、
 なつかしんで、しのんで、語りかけて、心の中を春いっぱいにしています。
 心が静かになるのです。




 このところ、友人、知人たちが病に倒れたという知らせが相次いで入り、ショックを受けて
いました。
 「もう私たちの歳は、いつどうなってもふしぎない歳なのよ」
と、倒れた友人当人が、私にも云ってきかせるように云います。

 全く、その通りだと思いつつも、ちょっといつもよりも腰が痛い、ヒザがおかしい、という
ぐらいでも、暗い気分を必死に立て直しているいる私としては、
「もし、私が倒れて病院に運ばれたら、こんな風に客観的に冷静でいられるかな…」
と、不安になったりして、
 なさけない思いになったり、
 その友人の冷静さを、すごいナと思ったり…。
 どうか、病の身体にも「春」が来ますように!とひたすら祈りながら過しています。




 今、暮している東京は、
 人が多い、自然がナイ、空がナイ、犯罪は多い、その上、ビル風が365日吹いている。
 と、イヤなことを挙げればきりがありませんが、
 私にとって大きな利点の一つに、
 芸術的催事が豊かだと云うこと、
 中でも大好きな音楽会系は、徒歩15分圏内に東急文化村があるので、本当に便利。
 この2月にも、心に訴えかけてくるステージに出会いました。


 一つは熊川哲也さんのKバレエカンパニーの「ベートーベン 第九」
 もう感心して言葉もないです。
 とにかく、この交響曲第九と云う大作の全楽章に熊川さん自身が振りつけているのです
よ。

 音楽上のこと、歴史的背景、ベートーベンの心の中…
 もう、ありとあらゆることを学び、自分の中におとし込み、咀嚼し、
 それを、自分が持つ強いイメージの中に浮かび上がらせて、全編を動かしていく作業を
この人はやっているのです。
 ただ、足をあげ、手を… という問題じゃないことくらい私にもわかります。

 ダンサーとしてだけでなく、振り付けをふくむ、バレエ界のチャレンジャーとして、
超一流! 現在宝物のような存在なのではないでしょうか。いつも同じ、ではないのです。
進化してる!
 後輩のダンサーもキラキラしている人がたくさん育ってきているし、本当に魅力的です。
 このKカンパニーのチケットは、もたもたしていると入手できません。
 熊川さんが踊る日などは、発売その日に SOLD OUT.
 私は、次の公演「カルメン」が超楽しみ! チケット、ゲットしましたよ。

 因みに、ベートーベンが「第九」を作曲していた頃のウィーンは、ナポレオン戦争後の
反革命的な体制下で、ヨーロッパでもっとも厳しい言論統制下にあって、密告や検閲が
行われ、自由や希望が封じられた、委縮した空気の中だったそうです。
 その空気の中で、人間讃歌をうたいあげ、
 理想に燃えた第九を作ったわけで、
 ベートーベンの、その心意気は、今回の振り付け全編を貫いていました。




 実はもう一つ、中国のヤン・り―ピンの「覇王別姫(はおうべっき)」の舞台がすごかった!
 ひと言で云えば、「舞踊劇」といったらいいのでしょうか。
 生れてはじめてみた舞台と云うか、ダンスだった!!
 たとえば、
 日本舞踊、と云えば、その様子が目に浮かびますね。
 社交ダンスにも、一つのスタイル。
 クラシックバレエ、ハワイアンフラダンス……などなど、
 おおよその踊る姿を想像することができます。
 でも、これに限っては、想像の枠を越えていました。
 「わ! はじめてだァ」なのです。

 あれ、空中バク転(?)って云うんですか?
 どこにもつかまらないで、身体がキレイに弧を描いて一回転。
 なんて云うのは朝めし前。
 腕は肩甲骨の後ろ側についてるんじゃないか、と思うほど思いがけない方向に伸びて
きてドキリ。
 千手観音みたい。
 ダンサー一人ひとりの身体能力の高さはびっくりです。
 で、それを武器に、愛や悲しみや怒りを情念そのものになって踊るので、
 床に足がついている、と云うよりは、空間に身体が舞い踊っていました。

 家に帰ってからも、彼等が心の中で踊っている。
 赤い血をまきちらし踊っている。
 上手く表現できないけど、心に切り込んでくる、斬新なシーンの連続。


 これを作った、ヤン・り―ピンと云う女性は、とても優雅なダンサーで有名だそうです。
まだ若い。
 残念ですが、私は一度も観たことはありません。
 でも、今回は、一部分踊ることはあるらしいですが、ほとんど全て、自分は制作側にまわ
りました。
 そして、この作品が、これまでのものと違って、余りにも現代的であることも、大きな挑戦
で、最初のころは、中国国内での上演は少なかったと、本人が語っています。
 でも、あっという間に、世界の「覇王別姫」になったと云うことです。

 「ふーっ」と息を吐き出し、
 「もう一度チャンスがあったら、観に行こう」と思っています。
 チャレンジャーが、命を削って作りあげている一流に、もっと触れていたい!





 そんな折、ごく近い親戚の男性 Sさんが、この4月から、大学院に入り、博士号に挑戦
すると聞いて、思わず叫んでいました
「すごーいッ 今、何才なの?」
「僕は50になりました アハハ…」
ビジネスマン 働き盛りです。
「今、オーストラリアなので、帰ったらランチしましょう」などとメールをキャッチするのも、
地球上のあっちこっちと云うくらい活動しています。

 で、今から月に2回とか、集中的に授業に出席して、発表や論文書きになるとのことですが、
 なんと、その授業の場所が北海道の北端・網走と聞いてまた叫んでました
「アバシリまで行くの!?」

 人間の情熱って、すばらしいですね。
 結局その人を動かしているのは、「情熱」なのですね。
 その人の価値観と生きて行く目的さえぶれていなければ、年齢に関係なく、チャレンジし
て行くことができるということなのでしょう。

 Sさんの存在は、とても身近なので、とても他人事とは思えず、
 この話を聞いたあとは、なんだか嬉しくなって、自然に鼻歌が出てきて、笑っちゃいました
 あァ、楽しいナ!




 熊川哲也さんや ヤン・り―ピンさんのように、芸術の世界で新たなものにチャレンジし、
舞台にかかり、評価を受ける姿は象徴的だけど、
 私たちの毎日の生活のくりかえしの中にも、ドキドキ感や、ワクワク感を作ることは、
いくらでも出来る。
 そしてそれが、一つのぶれない方向性を持っている時、
「なんだか、いっぱい貯まっちゃったナ、ここまで来られたんだナ」
と、気がついて、ちょっとだけ自分を認め、嬉しくなることもありませんか。
 ありますよね。

 そう感じることが多くて、あれもやりたい、これも、と、私にとってはいつも以上にさらに
ワクワク感の大きい春を迎えています。




 と思っているところに、主婦の友社から、かつて(確か7~8年前)受けた取材記事を、
今年リバイバル出版させたいとの連絡。
 4月1日発売臨時増刊号「前を向いて生きるヒント」
 その中で、コミュニケーションの大切さと、ヒントについて語っているのですが、
「あらァ、やっぱり私、若かったわァ……」と、かつての写真をみての第一声。
 ま、当り前ですよね。
 髪は黒いし、背すじも伸びていて、シワも少ない。
 ちょっといい気分。




 と、そもに、いとこの森陽子ちゃんから電話。
「国立美術館で、3月4日まで。うん、奨励賞もらったの」
「エッ、またもらったの?」

 陽子ちゃんは今70代半ば
 親の介護も終り、時間が出来てから作ってきたステンドグラスの作品が、公募に出品す
るたびに賞をとってきました。
 本人は、「ただ楽しいから作ってる」のだそうだけど、
その作品は、確かにひと味もふた味も違う。

 とにかく、色彩のとり合わせに、とても深いセンスを感じ、魅力的。
 それに、ステンドグラスと云うと、どう云うわけかスタンドランプが多いのに、彼女は全く
捕らわれていない。
 ネコを描いた「ゴッドマザー」なんて、ユーモラスで迫力満点だ。
 子ども達が行列している、なんともかわいい「虹の彼方に」
 思わず両手の上にのせたくなる「もう一つの地球」というランプシェード。
などなど、この人の世界が躍進し、謳っている。

 結局のところ、ここわずか数年の間に、神奈川県や東京都の公募に入選するだけでなく
会友に推薦され、新人賞や奨励賞を2回、教育委員会賞などをもらい、一番びっくりして
いるのが当人。
「齢をとってきてからでも、こんなことあるのね」と、ポカンとしている背中を叩いて、やっと
名刺を作らせました。
 ま、無欲のなんとやら、なのでしょう。

 ぶれずにコツコツ、楽しんで、の結果に咲いた花。
 私は、これ又、嬉しくてたまりません。
 さらに背中を押して、9月に個展を開かせるところまで漕ぎつけたところです。

 好きなことを、やり続けることも、立派なチャレンジなのですね。



 さ、私も、体調管理しっかりしながら、今年度の「自分の船」を漕ぎ出しましょう。
 まわりのみんなに刺激をもらいながら、楽しく、冷静に、今日を丁寧に!
 病に倒れても、笑顔で居る友人を見習いながら、心を伸びやかに持ちたいと、背筋を
伸ばしています。
 あなたの「大切な今日」を祈っています。



                                         2019年 3月 1日
                                            
                                            今井登茂子